12月6日 (月) [3234] 公美堂48
大先生は高野さんからバーントアンバーの絵の具を一本もらうとフタを開けパレットに少し絞り出した。それから筆を持って絵の具を筆に付け、その筆でキャンバスを真っ直ぐ指した。筆がキャンバスに届く距離ではない。大先生は「ン」とまたしても聞こえ難い音声で一声発し、宙空に丸を描くかの如く筆を右に回転させた。何度も言うが、そこにキャンバスはない。キャンバスは遥か遠い2メートル先だ。大先生は一体何をしているのだろう? なんかの呪いでもやっているのだろうか? アヒルに向かって。
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12月5日 (日) [3233] 薪割り7
斧で割ってもしょうがない直径10センチ以下の枝などは薪ストーブに入る長さにカットする。こっちの部分も大量にある。これでよかったのは、津久井の家でパーゴラを作った時に買った木を切る据え置きできる電ノコ。この工具は十センチ以下の角材をどんな角度でもセットすれば簡単に切れる。楽と言えば楽なのだが、十センチ以下というのが使い道の無さだ。パーゴラ以来使い道が見つからず誰かに譲ろうと思っていた。ところが今回使ってみて結構重宝だ。工具というのはいろいろ使ってみないと良さが十分に理解できないものだと知った。今回の薪切りの働きで、この工具は大事なものとなった。
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12月4日 (土) [3232] 公美堂47
自宅の廊下には描かれたアヒルの絵のキャンバスがところ狭しと並んでいた。その廊下を伝って高野さんと絵の具一本だけ入った箱を持った僕は、絵の具一本に絵に具箱など必要ないのに、大先生の後について広いアトリエに入った。アトリエに入ると大先生はアトリエの真ん中にある絵の具で汚れていい感じになったイスに座り、目の前2メートル先にある二十号のキャンバスをじーっと眺めた。キャンバスには白いアヒルが二匹描かれていた。高野さんが僕にそーっと耳打ちした。この大先生はアヒルしか描かないんだって。
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12月3日 (金) [3231] 薪割り6
弟が言っていた。公園などに木の株に似せたコンクリの株があったりするがアレは嫌いだ。家猫の柵は本当の木の株だからすごくいいってさ。確かに僕もあの偽物の木の株もどきは嫌いだ。わざわざ偽物作って堂々と人の集まる公園に置くなんて、ワシには恥ずかしくてできない。かといってワシが今ここに作ったあまりに自然自然が一番だという様な木の株風景もそれ程好きでない。みんなが気に入るというならそれでもいいけどさ。とりあえず木の株道はワシにとってとにかくとりあえずなのだ。
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12月2日 (木) [3230] 公美堂46
桜も散り暖かくなってきた午後、大先生からまた一本の絵の具で電話が入った。一度どんな大先生なのか見たいと高野さんに願い、店を閉めて車に乗り込んだ。30分程で大先生の屋敷に着いた。大先生の家の外の道のブロック塀にはキャンバスが10枚程並んでいて、お弟子さんというおばさん方がじっと大先生の言葉を持っていた。大先生はお弟子さんの絵の一枚一枚にあきれ果てた苛ついた表情でぶつくさぶつくさ聞き取れそうもない小声で難癖つけていた。おばさん弟子達は大先生の大事なお言葉を聞きとろうと耳を近づける気もなく、ハイ解りましたと適当に頷いていた。適当に流さないと大先生の苛立ちを怒りに変えてしまうことを経験で知っていたのだ。大先生は一通りいちゃもんつけると満足げに自宅に入っていった。
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