3月15日 (火)  [3333] 公美堂93

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 思い出したが、あの時芹沢くんはたぶんその域にいたのだろう。
 ある晴れた日の夕方、銭湯の帰りに二十歳のまま成長して幾つになったかわからない芹沢くんと道でばったり会った。「ちょっと、飲みませんか?」と酒に誘われた。なんとなく元気がなさそうだった。「頭の中に何人も人がいた事はないですか?」と酒屋への道すがら芹沢くんは頭のてっぺんの髪の毛を右手でむしりながら言った。「いるけど、右か左か示すせいぜい二人ぐらいかな。何人ぐらいいるんだ?」と聞いてみた。「50人ぐらいかな」とむしった髪の毛を白いシャツの胸ポケットに入れた。